1-2 面接試験へ向かう
- Travel to Face
- 5月29日
- 読了時間: 3分
更新日:10月5日
昨日の夜は、よく眠れませんでした。面接試験のガイドブックに従い自分でも驚くぐらい必死になって一週間前から準備をしました。今日は西浅草の旅行会社の面接試験です。
面接を受ける旅行会社の場所は、地下鉄銀座線の田原町から歩いて10分位のところです。
面接時間は午後2時からですが、じっと家で出発時間を待つこともできず、とりあえず隣駅の銀座線浅草駅に向かって出発しました。
浅草はインバウンドの旅行者でいっぱいだと聞いていましたが、銀座線の改札を抜けて前後左右を外国人観光客に挟まれて雷門・浅草方面出口の階段を上がりました。
階段を上がるとそこは6月とは思えない熱気が満ちたアーケードの中でした。

そんな中を浅草寺に向かって歩くことにしました。
面接時間までまだ40分位あります。
アーケードの中を行き交う人達は、みんな観光客に見えます。そして、みんな外国人に見えてきます。
途中から左に曲がり浅草寺の正面につながる仲見世通りに出て多くの観光客に埋れながら浅草寺を目指しました。
正午近くの仲見世通りは日陰が無く耐えられない暑さですが、道の両側にあるお土産物屋さんやお菓子屋さんが町に彩りを添え、観光客を引きつけています。
暑さを忘れ、かわいいお土産や真剣にお土産を選んでいる外国人の親子連れの姿を楽しみながら観光客の気分になっていました。

人があふれる浅草寺を避け、人がまばらな浅草神社の境内に入りました。神社に来るといつも思います。ここには神様がいると。神様はいつもそこでを静かに私を迎えてくれます。日本人はみんなそんな風に感じるのでしょうか。

浅草神社の神様にお礼の言葉を伝え、人混
みに戻り面接会場に向かいました。
「あなたはなぜ旅行会社に就職しようと考えたのですか」
突然、誰かが私に問いかけたように感じました。
驚いて廻りを見回すと旅行者たちが非日常を楽しんでいます。
「この人達はなぜここを訪れたのだろうか、なぜ日本を選んだのだろうか」
そんな疑問が浮かびました。答えは見つかりません。微かな苛立ちが照りつける太陽の日差しを一気に増幅させました。
「旅行会社に入ればきっと分かる」
「面接会場へ行こう」

私は観光客たちから逃げるように国際通りを渡り、かっぱ橋本通りに入りました。ここまで来ると観光客もまばらです。
途中から路地に入り、もう近くのはずだと最後に古いアパートの角を曲がると10mぐらい先に炎天下で団扇で扇ぎながら空を見上げている男性がいました。私に気がつくと団扇を振って
「旅奈さんだね」
驚くような大きな声で私の名前を呼びました。
「うちの会社目立たないんで、そろそろ来る頃だろうと思って外へ出てみたんだよ」
「こんなに暑い中、よく来てくれたね」
「なかはクーラが効いて涼しいから入って」
「今日は定休日なので私だけだけど」
定休日の面接を希望したのは私です。
自動扉が開いて中からの冷気が私の身体を包みます。
「今の人はホームページで見たこの会社の社長さんだ」
社長さんは、どんどん暗い事務所の中へ消えていってしまいます。
暗闇の中に溶けていく社長さんの白いワイシャツを見て急に身体中から汗が洪水のように噴き出してきました。
「あの」
「ーーーーーー-」
「あそこに行くぞ」
私は微かに見える白いワイシャツを追いかけて扉の中へ飛び込みました。




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